第2回 金洋太先生インタビュー『プログラミングを「嫌いにさせない」授業とは?』

プログラミング教育のこと、専門家の方にうかがいました。

第2回 金洋太先生インタビュー
プログラミングを「嫌いにさせない」授業とは?  

「プログラミング教育って必要なの?」「家庭でできることってあるの?」家庭での子どもの教育に悩むお母さんやお父さんのかわりに、LABOKIDS編集部が専門家の方々にお話をお聞きする「LABOKIDSサロン」。第1回の阿部和広先生インタビューはこちらからご覧いただけます。

第2回は、宮城県登米市立佐沼小学校教諭・金洋太(こん ようた)先生です。

金洋太先生

金洋太(こん ようた)先生

小学校の現役教諭としてmicro:bitを活用した授業を実践するかたわら、「Microsoft社認定教育イノベーター」として教育委員会が主催するプログラミング研修会などで公開授業なども行っている。

 

インタビュー画像

LABOKIDS編集部&ライター金子氏で、リモートでお話を伺いました。

 

 

「やりたいけれども、どうすれば…」試行錯誤の学校現場

 

編集部:2020年度から小学校でのプログラミング教育の取り組みが始まり、今年度からGIGAスクール構想にのっとって、子どもたちに1人1台タブレット端末が支給されました。現場の先生方のプログラミング教育に対する取り組みはいかがでしょうか?


金:「やりたい」「やれたらいいな」という気持ちはどの先生もおもちです。ただ、デジタルな機器や技術については今まで経験したことがないものが多いですし、機器に不慣れで単純に苦手意識があるという先生もいらっしゃいます。現場ではICTに関わる研修や情報交換をしながら、子どもと一緒に試行錯誤しているところです。


編集部:以前東京で、小学校の教頭先生を対象にプログラミングの研修会をしたことがあるのですが、いかにも不慣れ、という先生が結構いらっしゃいました。


金:東京なら、ここ2〜3年、情報とかプログラミングとか、いろいろな研修を受けているはずで、必要性はみなさん承知していると思います。ただ、プログラミングは「ここの学習で必ず行うもの」とはされていないので、「何がなんでも…」とはなりにくいようです。活用場面を具体的に見出せていないという感じでしょうか。みなさん忙しいですから「これ使うと時間がかかりそうだから、これまで通りアナログでいくか」とどうしてもなりがちです。そのあたりは、その先生の今までの経験値にもよるのかな、とは思います。学校では情報活用能力の育成に取り組んでおり、タブレットやパソコンの活用が進んできていますので、プログラミングへの理解や取り入れるハードルが下がってくると思っています。

 

 

ゴールをはっきりさせるのが、プログラミング授業のポイント

 

編集部:大人でも、子どもでも、初めてデジタルに接するときは、いろいろとためらいもあると思うのですが、先生は授業の導入部分で工夫していることとかありますか?


金:プログラミングが関わるカリキュラムを作るときに自分が大切にしているのは、「学んでいった最後にはこういったゴールがあるよ」というのを導入部分で提示することです。「プログラミングを絡めた方がいいものが作れそうだね」「問題解決ができそうだね」みたいなことを子どもたちに語ります。さらに、今まで学んできたことを生かしながら、プログラミングが問題解決へのアクションや意欲につながるようなイメージを持たせることを意識しています。


編集部:プログラミングを学習に取り入れることで、子どもたちに何か変化はありましたか?


金:他の学習だと、つっかえると途中で投げ出しちゃう子がいるんですが、プログラミングだと「最後までやりとげたい」という感じが見て取れます。うまくいかなくても消してもう1回つなぎ直して、という試行錯誤のサイクルが何回も短時間でできるというところに挑戦しがいがあるのかな、と思います。それと、プログラミングが間違ってうまく動かなくても、組み直せばいいだけなので、ゴールに向かって子どもたちが進みやすいというのもあると思います。

 

 

大事なのは「嫌いにさせない」こと

 

編集部:授業をやるときは、正解のプログラムみたいなものを用意するんでしょうか?


金:まずは子どもたちだけでやらせて、最終的に表現が同じものを取り上げて、「こういうのもある」「ああいうのもあるよね」という感じでいくつか紹介します。「こうだから、これは違うよね」というような取り上げ方はしません。「正解じゃないからダメ」では、プログラミングを嫌いにしちゃうかもしれない。絶対嫌いにさせちゃいけない、という思いが強いです。その意味で、授業中に出てくるであろうプログラムの中に、子どもたちが簡単に変えられるようなところ、創造性につながるところがあるよう、事前に想定しておくことも重要だと思います。


編集部:「嫌いにさせない」というのはとても大事ですね。他に先生が大切にされていることってありますか?


金:「社会とのつながり」というところでしょうか。学校の学びも「学校のための学び」じゃなくて、「社会とどんどんつながっていこう」という流れは強くなっています。「じゃあどうやって社会と子どもたちをつなげるか」というと、プログラミングを間に入れるとすごく相性がいいんですね。例えば、音楽プレーヤーの中にはコンピュータが入っていますが、似たようなシステムを子どもたちだけで作れたら開発者になったような気分になれます。グループで取り組めば、メーカーの製品開発の疑似体験になります。これらを通して自分たちが社会の一員であることも自覚できるはずです。重要なことだと思っています。

 

 

家庭でもデジタル機器に触れる機会を

 

編集部:授業参観とかで保護者の方が先生のプログラミング授業を見ることもあると思うのですが、どんな反応でしょうか?


金:「今ってこんな授業をしてるんだ」とか、「こういうのも必要だよね」とか、ポジティブな意見は多いと思います。今はGIGAスクール構想でiPadが入ってきて、持ち帰りなんかも週末にやっていますが、否定されるということはないですね。中には、お家の人を説得して家で使うためのmicro:bitを買ってもらった、なんて子もいます。


編集部:意外ですね。学校から支給されたものでも、子どもが自由に使えるタブレットを家庭に持ちこむことを良しとしない意見も、少なからず親側にはあるように聞きますが。


金:うちの学校で調べたところでは、Wi-Fiは各家庭に結構入っていました。おそらくは、パソコンはともかく、スマホ、タブレットは家にあるよ、というところだと思います。うちの地域でこれですから、東京ではデジタル機器が身近に無い家庭の方が少ないんじゃないでしょうか。家庭でデジタル機器に触れて慣れている子は、プログラミングにも抵抗がないですね。Makecodeとか、Scratchとか、初めてさわるアプリでもすぐ使い方を覚えてしまいます。


編集部:家庭でもそういうデジタル機器に触れる機会を否定せずに作ってあげることも大切ということですね。ところで、家庭でできるmicro:bitを使ったオススメプロジェクトってありますか?


金:LED、ボタン、音の組み合わせを基本に、「乱数」のブロックを使うと、いろいろな算数遊びができますね。例えばmicro:bitを2つ使って、表示された数字の大小を競うとか、出た数を足して計算の速さを競うとか、いろいろなゲームもできると思います。親子や兄弟でやったら楽しいんじゃないでしょうか。

※乱数ブロックを使った算数遊びのプログラムはこちらの記事で紹介しています。

 

 

 

 

 

編集部:おもしろそうですね。編集部でも紹介します。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

 

次回もお楽しみに!