第7回 佐藤蕗さんインタビュー「学びと遊びを区別しない」

LABO  KIDS サロン

プログラミング教育のこと、専門家の方にうかがいました。


「プログラミング教育って必要なの?」「家庭でできることってあるの?」家庭での子どもの教育に悩むお母さんやお父さんのかわりに、LABOKIDS編集部が専門家の方々にお話をお聞きする「LABOKIDSサロン」。

第7回は、手作りおもちゃ作家として数々のユニークな作品を作り続ける佐藤蕗(さとう ふき)さんです。
 

 第7回 佐藤蕗さんインタビュー
「学びと遊びを区別しない」

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佐藤蕗(さとう ふき)さん

育児をしながら作ってきたおもちゃがテレビ・WEB等で評判を呼び、手作りおもちゃアーティストとして活動。ペットボトルや空き箱など家の中にある身近な材料を使っているのも特徴。母親目線で、幼児から小学校低学年ぐらいまでのユニークな作品を手がける。子育てに奮闘する2児の母でもある。

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子育てを通して子供の頃の感覚がよみがえる


編集部:子供の頃はどんなお子さんでしたか?


佐藤:運動が苦手なこともあり、どちらかというとインドア派でした。工作が大好きでいつも何か作ってましたね。今作っているおもちゃは、昔自分が子供だった頃に作っていたものを再現しているものもあります。


編集部:どういうきっかけでクリエイターの道に進まれたのでしょうか?


佐藤:美大を出て、最初は店舗設計(内装)の会社に就職して空間デザインなどをしていました。その後、個人住宅の設計事務所やハウスメーカーで設計アシスタントをしました。出産を機に会社勤めを辞め、フリーランスに。設計の仕事を続けるかたわら、子供のためにおもちゃを手作りするようになり、作品をSNSやブログにアップして…と続けているうちにお仕事にできるようになった、という感じです。


編集部:ユニークな作品を作り続ける佐藤さんですが、そのアイデアやひらめきはどこから来ているんですか?


佐藤:子供と過ごす日常の中で、「あれっ?」と思ったり、面白いと思ったりしたことをベースにしています。例えば、わが家のマンションのエントランスがガラスのドアで、冬だけ光の加減で床に虹が出ることがあるんです。夏は出ないんだけど。おそらくは太陽の高度が関係してるんだと思います。

子供とそれを見つけて「なんで今日は出てないんだろう?」とか、「今日はすごく綺麗に出てる!」とか、よく言っています。そういうことを言える相手がいるから、日常のちょっとしたことが楽しめるし、工作のヒントにもなるのかなと思います。

それと、なるべく身近な材料で、楽しめるものを考えています。子供の頃からいろいろなものを作ってきたというのが根っこにあり、目の前の材料から考えるというのが習慣になっているのかもしれません。長男が生まれて、その感覚がもどってきた感じ。目線が下がってきたというか…。子供がいて一緒に反応してくれるので、私自身も楽しんで作れますね。


 

自分なりの最適解を作品で提示

お風呂シール(蕗さん提供写真)


編集部:
佐藤さんの本(「ふきさんのアイデアおもちゃ大百科: ひらめいた! 遊びのレシピ」)にはおもしろい作品がたくさん出てますが、うちでも「お風呂シール」(お風呂の窓や壁などに貼るプラスチックのシール)を作ったら、子供に大ウケでした。


佐藤:あれは息子が小さいとき、お風呂に入ってくれなくて困った時期があって、なんとか入ってほしいというのがきっかけで作りました。表面張力を利用しています。なんでくっつくのかな?というところも、つきつめて考えていくとおもしろいかな。この条件なら張り付くとか、条件が変わると張り付かないとか、興味がある子はそういう部分にも気づくと思います。こういった何か内容があるもの(学びがあるもの)を要素として工作に入れることは多いですね。せっかく作って発表するなら、工夫がある方がおもしろいかな、と思っています。

ほかにも「学び」や「気づき」があるものをよく作っています。

例えば「かおボトル」というペットボトルを利用した作品<写真>があります。下に穴が開いていて、水を入れると、ふたがないときは穴から水が出て、ふたをしめると水が出ない。子供が遊んでいて自然にそれを発見して不思議だなと思う。大気圧でそうなるみたいなのですが、すごくおもしろいと思ったので、作品化しました。「大気圧」というお題があってそれを私なりの最適解として「手に入る材料で形にするならこれ!」という感じで作りました。作品作りの基本的なスタイルでもあります。

顔をつけてるのはキャッチーだから。子供に興味をもってもらうのは大事なことだと思って。

 かおボトル(蕗さん提供写真)

ただ「学び」を押しつける気はないし、押し付けになっていないかはいつも気をつけています。ただのペットボトルに穴を開けて置いておくだけでも勝手に子供は何かを発見していくものだと思います。気づく子は気づいて「なんでかな?」と興味をもってくれるし、気づかなければ「おもしろい」と遊んでくれるだけで十分。種は提供したいんだけど、それをどう育てるかは子供たち次第。あとは託すしかないと思います。

 

micro:bitは「素」のところがいい


 

編集部:micro:bitを使った作品も結構ありますね。


佐藤:私自身はマイコンボードやプログラミングに習熟しているわけではありませんが、micro:bitは価格も手頃だし、扱いやすいので最初に取り組むにはいいかなと思いました。知り合いに詳しい人がいて相談しながら作品作りを進められたというのもあります。


編集部:micro:bitは電子基板そのものというのもあって、見た目にちょっとびっくりしちゃうお母さんもいるのですが…


佐藤:私はそれは気にならないかな!他のプログラミング教材に比べ、素がそのまま出ている感じがむしろ好き!加工された料理ではなくって、素材そのものの感じがします。

『アナログorデジタル』ではなくて、あくまでプログラムは工作材料のひとつとして取り入れられたらいいなと思います。

プログラミングってどうしてもゲームとかアプリとかという文脈で捉えられがちですけど、それだけじゃもったいないなぁと思うんですよね。自動ドアとか、タイマーとか、日常のあらゆる場面で「モノ」を動かしているから。それを感じられるような作品が作れたらいいと思います。

お母さんたちがびっくりしちゃうのは、先入観もあると思います。本当はできるのに「こういうものは男の人がやるもの」と思っている人は多いかも。やらないだけで、「使ったら普通に使える」という女性はたくさんいると思います。

最近、昔からの友人で、プログラミングとかまったく関係ない、子育て中の普通の主婦から連絡をもらいました。「『腹筋クマちゃん』を作りたいんだけど何買えばいいの?」とのことでした。さっそく「micro:bitのスターターキットとこれとこれ、買ったらいいよ」って紹介しました。

 


私の作品は「プログラミングを駆使してがんがん動かします」という感じではないんですよね。そもそも難しいプログラミングができないし…!ガチっぽさがなく警戒せずに見られる、簡単なプログラミングで動くけど、使い方とか組み合わせの妙で、可愛いとか、おもしろいとか、できそうとか思ってもらえる。そういうものを目指しています。

主婦の友人が連絡をくれたのもたぶんそこかな?と思います。かわいい、面白い感じになっていると、作りやすく見えるはず。そういう作品を通して「どう、やってみない?」と問いかけるのが私の役目かなと思います。好きになればいろいろな作品は見つけられるので、その入り口のところに誘っていく感じですね。

例えば、micro:bitを使った作品で、牛乳パックがベロを出すという工作があります。単純に音が鳴ったらサーボが動いてベロが出るっていうだけなんですけど、わが家ではとっても好評でした!話しかけたり、泣いてたりすると、ベロを出して反応してくれるので、気づけばペットみたいな存在になってました。

 

 

 

プログラミング教育はやっぱり大事


 

編集部:プログラミング教育に関して、子育ての中で何か実践していることってありますか?


佐藤:長男はNHKのEテレなどの影響で小学校低学年のころにスクラッチをやっていました。今は5年生でプロセッシングにハマっています。

最近の出来事で「お母さん、sin(サイン)、cosine(コサイン)ってすごく便利だよ」って教えてくれたことがありました。三角関数は高校数学の内容ですが、プログラミングの中で使ったんだそうです。長男にとって学んだことが具体的なものにつながっていくのを体感した瞬間だったんですね。長男の目がキラキラしていて、新しい概念に出会ったときの表情っていいなぁ、と思いました。

他にも生活の中で『プログラミング教育ってすごい…』と思った瞬間がありました。

私はわりと思考がとっちらかっちゃうタイプなんですが、そのせいで仕事に失敗した時のことです。「わあ、失敗しちゃった、どうしよう」とパニックになっていたら、長男から「お母さん、落ち着いて。まずは問題を書き出してみて。対処できるものをより分けて、具体的に何をすれば良くなるか、考えてみよう」と冷静に言われました。「すごい、これが『プログラミング的思考』ってやつなのかな?!」と感心しました。こういうことができると、生きるのが楽になるし、確かに大事だなぁと思いました。プログラミング的思考って、自分がきちんと自分の好きな人生を歩んでいくのに必要なものなんだな、とあらためて思った瞬間でした。

例えば、アーティストの世界って感性優先みたいに思われていますけど、作品を作ってたくさんの人に伝えていくには、論理的な思考もとても必要だと思います。プログラミング教育=(イコール)プログラマー養成だけ、ではない。公教育で本当にできるならやってもらえるとすべての子供のためになると思います。ただそれができるのかっていう問題もあろうかと思います。苦手な先生もいるだろうし。

普通のお母さんにとっても「プログラミング教育」ってなにか漠然としているかなと思います。でも、あまりむずかしくとらえなければ、普通の遊びにもプログラミングっぽいものがあると思っていて...。たとえば、小さい子は遊びの中のルールが大好きです。わが家でよくやってたのは「お父さん固まりゲーム」。急に固まったお父さんがどこかのボタンを押したら、また動き出す、というもので、こことここを同時に押すと動くみたいなルールを見つけていくゲームです。ルールって子供の遊びの中ではウケる要素があって、こんなゲームでも30分ぐらい遊んでいられます。小さい子もそういうところからルール作り遊びができて、思考力の養成に結びついていく感じがします。

ルールとプログラミングはその点ですごく似ています。プログラミングはこの「ルール遊び」と考えれば、わかりやすいかもしれませんね。



 

家庭でも多様性は大事


 

編集部:佐藤家はアーティストのご夫婦と伺っていますが、教育方針とかありますか?


佐藤:アーティストといってもタイプは違います。夫はアイデアや企画が素晴らしいのですが、立体工作などを作るのは苦手なタイプだし、私は手を動かして作るのが楽しいというタイプ。でも、お題に対してそれぞれの最適解を作品という形にする点は似ているかな?例えば、子供がひらがなを覚え始めた時期に、夫婦で「くらしのひらがな」<写真>という作品を作りました。家にあるいろいろなものにひらがなを書いたシートを貼りました。冷蔵庫に「れいぞうこ」とか。「ひらがな」というお題に対して「こういうことができるよね」という感じでできた作品です。子供が小さい頃は、子供の成長をネタに大喜利的に作品を作るなんてことをよくやっていました。教育方針というほど大袈裟ではないですが「『まなび』と『あそび』は区別しない」という考えがあったと思います。

 

自宅の中にある「くらしのひらがな」(蕗さん提供写真)


子育てについて言えば、印象に残っていることがあります。

子供が2〜3歳の頃、外で遊んでいたとき、偶然にも80歳ぐらいの方が私たちを見て、つぶやきました。

「おれもこうやって母ちゃんに可愛がってもらった時期があったなぁ〜」って。

私にとってすごく印象深い一言でした。

その方の母親は、年齢からしてたぶん亡くなっていたはずです。「死んでも誰かに勇気を与えている」というのはすごいことだと思いました。

教育とか育児というのはそれぐらい長いスパンで考えるもので、すぐに答えが出るものじゃないし、むしろ答えなんか出ないのかもしれない。

子育てについては、目の前のことにとらわれ過ぎない方がいいな思いました。それに、「幸せでいてね、幸せになってね」と親から言われるのも、時に子供にとって辛い場面があるかもしれない。結局、「間違っても、うまく行かなくても、あなたは大丈夫!」ということを言い続けるしかないのかも、と最近は思います。

ただ、子供が自分で問題を解決しようと頑張っている時に、親が冷静に見守れるかどうかは、親の課題の一つだなと思います。特に、子供が困っている様子を見ると、心配で辛そうになってしまうこともあります。私自身はまだまだ未熟なので、肝の座ったかっこいい親になりたいなぁって、常々思っています。


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素敵なお話をたくさんお聞かせくださった佐藤さん。LABO KIDS編集部のスタッフもママばかりなので、子育てトークで大盛り上がりな取材となり、とても楽しかったです!

 

そんな佐藤さんは、なんと新しい本を執筆中とのこと!
こちらもどうぞお楽しみに!

「ふきさんのクイックおもちゃ大百科(偕成社)」

2023年7月10日発売予定!