第8回 金本茂さんインタビュー 「使う」より「触れる」ことが大事

LABO  KIDS サロン


プログラミング教育のこと、専門家の方にうかがいました。


「プログラミング教育って必要なの?」「家庭でできることってあるの?」家庭での子どもの教育に悩むお母さんやお父さんのかわりに、LABOKIDS編集部が専門家の方々にお話をお聞きする「LABOKIDSサロン」。

第8回は、株式会社スイッチサイエンスの取締役社長・金本茂さんです。STEM教材事業にかける思いや二児の父親として子育てをどう考えているかなど、お聞きしました。

 第8回 金本茂さんインタビュー
「使う」より「触れる」ことが大事

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金本 茂(かねもと しげる)さん

マイコンボードや電子工作部品などを扱うスイッチサイエンスを2010年に設立。現在では、自社開発商品を含むECサイト事業、IoT開発協力事業のほか、関連会社スイッチエジュケーションを通してSTEM事業を展開している。小学一年生の女の子、3歳の男の子を育てる2児のパパでもある

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子どもたちの興味・関心を、伸ばすには?

 

編集部:なぜSTEM事業を始めたのでしょうか?

金本:私は子供の頃からプログラミングや電子工作が好きで、それが今の仕事に繋がっています。もしかしたら自分と同じように、こういった分野に興味を持って、将来それを仕事にするような子どもがいるんじゃないか、いやそういう子どもがいたらいいなっていう気持ちがとにかく最初にありました。そのために自分にできることがあればやりたいな、と。もちろんやるからにはビジネスにしなくてはいけない。ただ「そこにビジネスとしての可能性があるからやる」ということではなくて、この分野を仕事としている者の義務、当然やんなきゃいけないという感じです。子どもたちの入門となるところだから。

経営者として、今、購入してくれる人たちだけではなく、未来のお客さんを育てることも大事だと思っています。育てた人が将来うちから商品を買ってくれるかどうかはわからないけど、それでもいいと思っています。

私は、人類を進歩させてきたのは科学や技術であったと思うんです。インターネットができ、スマホができて、10年前、20年前より格段に快適な暮らしができるようになったのは、主に科学や技術が発展してきたから。例えば、ネットやスマホがない時代は、ちょっとしたイベントの情報を知るにしても新聞や雑誌を見て一生懸命探さなければならなかった。今ならあっという間。科学や技術の発展がなかったらあり得ない世界だと思います。

コツコツとそういった技術を開発してきた科学者や技術者たちがいたから今、可能になった。自動車会社だったり家電会社だったり、そういったところで日の当たらない開発の仕事を続けてくれた人たちがいたから。科学や技術の分野に恩返しがしたい、そして、これからも科学や技術の分野を続ける人を増やしたい、という気持ちでスイッチサイエンスという会社をやっています。STEM教育事業を始めたのも同じ文脈ですね。

編集部:micro:bitをあつかってからでも6年経ち、7年目に入っています。2020年に小学校でもプログラミングが必修化されました。それについてはどう思いますか?

金本:「やっと始まったか」という思いと「文科省も苦労したんだろうなあ」と両方の思いがありますね。関係者はきっと苦心惨憺されたと思います。ただ、現在の教育指導要領では「プログラミング」という教科ができたわけではなく、「プログラミングは、ほかの教科の中で使いましょう」という指針なので、この分野で長くやってきた者の感想として、そこに少しもどかしさを感じる部分はあります。もちろん現場で体現している先生や生徒の間では十分機能しているのかもしれないし、プログラミングやコンピュータに興味がある子ばかりじゃないと思うので、一概には言えないですけど。

編集部:その辺り、スイッチサイエンスとしては、どう取り組んでいきたいですか?

金本:私たちができることを考えると、教材やサービスを通して、学校でSTEMやプログラミングに触れた子どもたちの興味・関心を、伸ばしてあげるお手伝いをしたいと考えています。

ただ、学校から帰ったあとの「家庭」という環境には、保護者がいます。保護者が納得してくれなければ、教材やサービスは子どもたちに届かないという現実もあります。一般的に、ソフトウェアの新技術は環境を手軽に構築して無料で試すことができますが、ハードウェアにはコストがかかることが多いです。お金を支出しないと触れることはできません。そこにビジネスチャンスもあるわけですが。保護者の納得感は、主に「学校で取り組まれているなら、家庭でも活用すべき」という点にあると思っています。学校環境に、例えばmicro:bitのようなハードウェアが導入されることは、非常に重要なポイントです。6年前に比べ、ハードウェアの導入数は増えていると考えられますが、まだ学校現場で積極的に活用されているとは言い難い状況です。もっと学校で活用されれば、家庭環境での普及も進んでいくのではないかと思います。

特に、子どもにとっては「使う」というより「触れる」ことが大事です。最初にプログラミングに触れる人にとっては、ソフトウエアのように画面で完結してしまうのはちょっとわかりづらいのではないかと思います。確かにスクラッチのようにプログラミングしてキーを押したらネコが何かしてくれるというのも面白いんですが、その面白さを知るにはパソコンにある程度触れているという、経験値がいると思うんです。

micro:bitのようなハードウエアなら、プログラミングするとLEDがついたり、音が出たりとモーターが動いたりと具体的でわかりやすい。子どもにとっても、目の前で起きる現象には経験があるので理解が早いのでは、と思います。

編集部:お子さんと一緒にマイクロビットを使った「しゃくとり虫」のキットを組み立てたそうですね。

金本:1年前のことですね。説明書通りに組み立ててうまくできました。ドライバーでネジを締める作業とか、楽しくやっていました。ふだんから、「何かを一緒に作る」っていうのは結構やっています。ニトリの机を組み立てるとか、自転車の反射板をつけるとか。そこで、ネジを締めたり、緩めたりという体験はあったので、やれたのかなと思います。

micro:bitに初めて触れたのもその時ですね。与えられたキットを組み立てて、説明書通りにプログラムを組んだだけなんですけど。でもやらせてみて、何かを組み立ててコンピュータに繋いだら動いたっていう経験、それ自体が大事だとあらためて思いました。

 

 

体験が大事

 

編集部:今度は社長ではなく、二児の父親としてお答えください。お子さん達にSTEM関係は何かやらせてますか?

金本:興味の幅を広げる機会になれば良いと考えて、タブレットやパソコンは与えています。基本的には、子供たちが触れる機会をたくさん持てるようにすることが大切だと思っています。ただし、それを選び取るかどうかは子供たち次第。無理に押し付けたりはしません。むしろ、子供たちには自分の好きなことを見つけて欲しいです。もちろん、私の専門分野である工学や技術に興味を持ってくれたら嬉しいですが、最終的には彼ら自身が自分の興味に従って成長していってほしいですね。だからSTEMに限らず、色々な体験をさせてあげたいと思っています。

編集部:小一の娘さんは、CoderDojoに通われているとか?

金本:そうなんです、実は妻がそれを見つけてきたんです。正直、まだ娘には早いのではないかと心配しましたが、彼女自身がとても楽しんでいるので、私の心配は杞憂でした。子供には様々な体験をさせることが重要だと再認識しましたね。

そのCoderDojoの支部では、スクラッチでのプログラミングを教えてくれます。ある程度出来上がったプロジェクトが用意されていて、最後の仕上げを子ども自身にさせるカリキュラムですね。キーを叩くと〇〇が起こるといった感じです。プロジェクトの概要はプロジェクターを使用して説明をしてくれて、その後は個別に指導を受けています。生徒1人につき先生が1人ついてくれるという贅沢なサポートがあり、娘は月に一度通っています。

それに加えて、最近読書にも夢中です。同時に4〜5冊もの本に没頭していたりしますよ。最近は公文の「なぜなぜカレンダー」がお気に入りです。大判のカレンダーなんですが、1日につき1つ、ちょっとした豆知識が掲載されていて、娘はそれがとても楽しいらしく、学んだことを積極的に話してくれます。

これからもさまざまなジャンルの本を楽しんで読んでいってもらえたらいいなと思っていて、「たくさん渡しておけば好きなの読むだろう」ぐらいの感覚でたくさん与えるようにしています。

編集部:ありがとうございました!次回は夫婦の役割分担や、家庭での教育方針について、奥様にもお話を伺いたいと思います。